中村さんが上勝町にたどり着いた背景には、彼の自由な旅の生活がありました。もともとネパールのカトマンズを拠点に、南アジアを旅していた中村さんは、1989年にネパールのビザ規則が変わり、長期滞在が難しくなったことをきっかけに日本への帰国を考え始めます。当時、ネパールで知り合った友人が、上勝町で空き家を借りて住んでいるという話を耳にし、その友人を頼りに上勝町を訪れたのが、この地域との出会いでした。空き家情報を求めて訪れた上勝町で、運良く住む場所を見つけた中村さんは、そのままこの町での生活をスタートさせました。薪を使った生活やシンプルで無駄のないライフスタイルが、彼の心に響き、自然と共生する新しい生活を築くこととなります。
上勝町での中村さんの生活は、非常にシンプルで自然と調和したものでした。彼が選んだ生活の中心は、薪を使った暮らしです。薪を使うことは、中村さんにとってただの燃料確保ではなく、自然と向き合いながら生きるための重要な要素となりました。また、ゼロウェイストを目指し、無駄や浪費を徹底的に排除した生活を送っています。日々の買い物でも、包装を減らし、量り売りを利用することで、ゴミの発生を最小限に抑える努力をしています。このようなシンプルな生活を通じて、中村さんは資源を無駄にせず、環境負荷を減らすライフスタイルを実現しています。無駄を出さない生き方は、彼の生活哲学の一環であり、自然と人間との共生を目指す彼の姿勢が表れています。
中村さんは、ゴミに対して非常に独自の考えを持っています。彼にとってゴミとは、自分にとって不要となったもの、つまり最初は必要だったが、後になって不要になったものを指します。たとえば、せんべいを買うとき、せんべいそのものは目的として手に入れるものですが、その袋は食べ終わると不要なものとなり、これがゴミとして認識されるのです。中村さんは、このように生活の中で出るゴミをできるだけ減らすため、最初からゴミになる可能性のあるものを購入しないようにしています。量り売りを利用したり、包装の少ない商品を選ぶことで、ゴミの発生を抑えることができると考えています。
特に彼が重視しているのは、プラスチックゴミの削減です。現代の多くの商品はプラスチックで包装されていますが、この包装がゴミの大部分を占めていることを中村さんは指摘します。プラスチックは、リサイクル可能な資源ゴミであるものの、完全にゼロにすることは難しいと感じています。そのため、なるべく包装のない商品や、自分で容器を持参して量り売りで買うことを推奨しています。
中村さんが暮らす上勝町では、ゼロウェイストを目指す動きが活発で、彼自身もその活動の一環として生活を工夫しています。彼は、地域のゴミステーションで資源ゴミを分別し、缶や瓶、プラスチックをきちんと管理しています。また、牛乳パックやヨーグルトの容器なども、可能な限り再利用し、最終的にゴミとして出す量を減らすよう努めています。ゼロウェイストの目標を達成するためには、個々の努力が必要ですが、中村さんはその限界にも気づいています。どんなに工夫しても、完全にゴミをゼロにすることは現実的には難しいと彼は感じています。
特に埋め立てや焼却を必要とするゴミに関しては、個人の努力だけでは解決できない問題が残っています。しかし、その中でも可能な限りゴミを減らし、地球環境に与える負荷を軽減するための取り組みを続けています。中村さんは、ゼロウェイスト運動を通じて、自分だけでなく、地域全体の意識を高めることが重要だと考えています。経済活動が拡大すればゴミも増えるという現実に直面しながらも、経済の規模を縮小してでもゴミを減らす方向に進むことが必要だと彼は強調します。
結局のところ、ゴミを減らすための選択は個人だけでなく、社会全体が取り組むべき問題です。中村さんは、ゴミの削減が経済に与える影響や、その過程で避けられない痛みについても理解していますが、持続可能な未来を目指すためには、そうした困難を乗り越える覚悟が必要だと感じています。ゴミの問題を解決するための方法として、彼は消費量を減らすことが最も効果的だと主張し、そのための具体的な行動を日々実践しています。
中村さんが選んだ生活スタイルの中で、冷蔵庫を持たないという選択は、特に特徴的です。現代社会において冷蔵庫は必需品とされることが多いですが、中村さんはその管理の大変さを理由に、冷蔵庫を持たない生活を選びました。物を所有することは、それを管理する責任が伴うため、なるべく少ない物で暮らす方が、生活がシンプルになり、管理の負担も軽減されると彼は考えています。
日常生活において、彼は必要な時に必要な分だけの食材を購入し、冷蔵保存が必要なものを最小限に抑えています。例えば、野菜は自分で栽培し、日持ちのしない葉物野菜はその都度収穫して食べるようにしています。こうした生活の工夫によって、中村さんは冷蔵庫を持たずとも十分に生活を維持しています。また、必要なものをその場で使い切るという姿勢は、食材の無駄を防ぎ、自然と共に生きるという彼の生活哲学を反映しています。
さらに、中村さんは自分でかまどを作り、薪を使った料理を楽しんでいます。ネパールでの経験が彼に影響を与え、薪の準備から料理まで、自らの手で行うことで、自然とのつながりを感じながら生活しています。薪を使った料理は、時間と労力を要しますが、その過程こそが彼にとっての楽しみでもあります。かまどを作る際には、最初は不慣れでしたが、試行錯誤を繰り返し、ようやく満足のいくものが完成しました。このようなプロセスを経て、彼は物を作る楽しさと、その過程で得られる知識を大切にしています。
生活に必要なエネルギーを自然から得ることで、中村さんは持続可能な暮らしを実現しています。薪を使うことは、単なる燃料の確保にとどまらず、自然と共に生きるための知恵を学ぶ機会でもあります。彼は、薪の使用量やストックを調整し薪の使用量やストックを調整しながら、無理のない範囲で自然資源を利用しています。このように、薪を使った生活は中村さんにとって、単なる生活の一部ではなく、自然と対話する手段でもあります。どの程度の薪があれば安定した生活を送れるのか、どのようにして効率よく薪を使うのか、そういったことを日々考えながら、彼は自然と共に生きています。
また、かまどでの調理だけでなく、薪を使った生活には独自の工夫があります。例えば、ネパールでの経験から得た知識を活かし、調理方法を工夫することで、少ない薪でも効果的に料理ができるようにしています。こうした工夫の一つ一つが、自然と共に生きるための知恵として蓄積されているのです。
中村さんにとって、持続可能な生活とは、自然から学び、その恵みを無駄にしないことです。物を持たず、必要なものだけを使うことで、彼は自分のライフスタイルを確立しています。このような生活の工夫が、彼のシンプルな暮らしを支えているのです。自然との共生を大切にしながら、無駄を省いた生活を続けることで、中村さんは持続可能な未来を見据えた生活を送っています。
中村さんは、持続可能な生活を目指して30年以上も試行錯誤を続けてきました。彼のゼロウェイストへの挑戦は、日々の暮らしの中で無駄をなくし、ゴミを減らすことから始まりました。しかし、完全なゼロウェイストを達成することは、個人の努力だけでは限界があることにも気づきました。特に、消費社会の中でゴミを完全になくすのは困難です。それでも彼は、包装の少ない商品を選んだり、量り売りを利用することで、自分が出すゴミを最小限に抑えています。また、ゴミを減らすための選択は、経済の縮小を伴うことも理解しつつ、それでも環境負荷を減らすことを最優先に考えています。中村さんの持続可能な生活は、常に自然との共生を念頭に置いた取り組みです。
中村さんの生活には、ネパールでの経験が大きく影響しています。ネパールでは現地の人々と共に生活し、彼らから薪を使った調理法や手作りの技術を学びました。特に、薪を準備する作業や、時間をかけてじっくりと調理をすることの楽しさを実感したと言います。こうした経験が、現在の彼の生活スタイルに反映されています。また、彼の趣味である切り絵や針仕事も、ネパールで学んだ技術が基になっています。ネパールの文化や技術は、彼にとって単なる過去の思い出ではなく、今もなお日常生活の中で息づいているのです。中村さんの暮らしは、ネパールでの体験を通じて育まれた創造性に溢れています。
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